世界一裕福な島国が最貧国に転落したホントの話|アホウドリが作った島ナウル

ナウルのイメージ

20世紀の後半にリン鉱石という化学肥料にの原料となる資源によって、世界で最も裕福な島と呼ばれ、その後に資源の枯渇と並行して、経済が破綻して貧困状態に陥るという作り話のような展開を繰り広げた国があります。

ナウル共和国(Republic of Nauru)。

太平洋に浮かぶ東京の港区と同じくらいの国土の小さな島国は、20世紀の後半の短い期間に世界で最も裕福な国となり、さらにそこから短い期間に最貧国となり、国家の破綻、国民の多くが肥満や糖尿病の問題を抱えるなど、まるで漫画の作り話の展開を繰り広げます。

今回は、そのナウルとキーとなったリン鉱石をめぐる話の大枠を解説していきたいと思います。

ナウルって?

ナウルの地図

 

ナウルは、太平洋に浮かぶ国土21k㎡(東京の港区と同じくらい)ほどの小さな島に人口1万人ほどが居住しています。国土の広さとしては、バチカン、モナコの次の世界で3番目に小さい国です。

ナウルという国名は、現地の「私はビーチに行く」という言葉を語源にそれを短縮したものです。

リン鉱石の取れる島

ナウルが他の太平洋の島と違ったのは、リン鉱石と言われる化学肥料の原料になる鉱物資源が豊富に取れたということが挙げられます。

サンゴの死骸やアホウドリの糞が長い時間をかけて鉱物化したリン鉱石は、植物が花を咲かせたり、実をつけるのに必要な養分であるリンを供給する上で重要な鉱物です。このリン鉱石は、土壌が肥沃ではないオーストラリアなどの地域で農業を展開するのに、非常に重要だったことから、ナウルはこのリン鉱石によって莫大な利益を挙げます。

それによって、世界で最も裕福な島国といわれる生活水準の国となり、その後経済が破綻するという短い期間でジェットコースターのような展開を経験するという歴史をたどります。

ウソみたいな展開が次々起きた国

タイトル

先住民が暮らす島

→ヨーロッパの植民地(ドイツ・イギリス)

→日本の占領下・戦場に

→戦後、イギリス統治を経て独立

→リン鉱石で世界で最も裕福な国に。

→リン鉱石が枯渇し始め、経済が破綻

→そのリカバーのために、資金洗浄を合法的に出来る舞台を提供し、犯罪の温床に。

→国家が破綻

簡単になぞっても、↑のような展開が繰り広げられています。ここでは、主なポイントについて、概要を説明していきます。

植民地時代:ドイツ→イギリス→日本→オーストラリア

元々は太平洋にぽっかりと浮かぶ島で住民は自給自足の生活をしていましたが、1798年に初めてイギリス人が上陸します。

その後、しばらくしてから化学肥料の原料になるリン鉱石が大量に埋蔵されていることが分かり、ヨーロッパ(ドイツ・イギリス)の占領下で主にオーストラリアの農業用の肥料としてリン鉱石が採掘されていきます。当時からリン鉱石の利権は莫大なものでしたが、ナウルの住民にはほとんど、その利益は享受されませんでした。

その後、第二次大戦中もリン鉱石を巡って、争いとなり、日本軍の占領下となり、戦場になります。

今度はリン鉱石が、火薬などの原料にもなることから、重要な戦略物資となり、第二次世界大戦の太平洋側の戦略地点としての奪い合いの舞台となります。

その後、日本の敗戦・撤退後は、一時的に宗主国が独立を支援するという国連の信託統治領制度によって、オーストラリアの統治下となります。

このときにも、リン鉱石のほとんどをオーストラリアが握っていたことに対する不満を背景に、独立の機運が高まり、1968年にナウルは国家として独立を果たしました。

独立⇒世界一の裕福な島国へ

独立後、リン鉱石の利権が完全に自分たちの物となったことで、ナウルはその莫大な利益で繁栄を謳歌しました。

税金はなく、国民は労働をせず、働くのは外国人労働者。一切働かずに、高い水準の生活が国民に保証されている。

こんな漫画のような夢の状態が、古代や中世ではなく、20世紀に実際に存在していたのです。

しかし、そんな夢のような状態は長くは続きませんでした。

リン鉱石の枯渇⇒経済の困窮

リン鉱石の枯渇とずさんな資産・資金管理によって、経済が困窮していきます。

公金と私金の混同を始めとした慢性的な政治の腐敗、乗客がほとんどいない赤字路線の飛行機を飛ばし続けて、赤字を垂れ流し続けるような放漫経営などが最たる例です。

加えて、リン鉱石による利益は、不動産などの投資に積極的に当てられていたのですが、ずさんな管理や怪しいエージェントに騙されるなど、そのほとんどを水泡に帰してしまいます。

犯罪の温床へ

結果として、リン鉱石の莫大な利益のほとんどを失ったナウルは、その破綻のリカバリーのために、実体のない銀行を合法化し、登録料を取るというビジネスを展開します。

そのことで、マフィアの資金などがナウルを経由することで、資金洗浄されるマネーロンダリングの舞台、いわゆるタックスヘイブンとなります。このナウルの状況は、当時の国際社会から大きな批判を受け、アメリカから「ならず者国家」にナウルを指摘していました。

国家の破綻

結局、借金で首のまわらなくなったナウルは、島からガソリンがなくなる、銀行にお金がなくなるなど国家として機能しなくなり、破綻します。

その後は、オーストラリアや台湾などの援助を受けながら、少しづつ政治の改革によって国家の再建を目指していますが、その再建の鍵となっているのはリン鉱石の二次採掘という、結局のところリン鉱石に頼らざるをえないというのが、現在の状況です。

また、国民の肥満や糖尿病などの健康面でも問題も多く、今後のナウルの再建は前途多難な道が続いています。

ナウルから学ぶ教訓

ナウルで起きた出来事は、日本の明治維新を遥かに超えるレベルの大きな変化を彼らにもたらしました。

日本の場合は江戸時代の社会システムがベースにありましたが、ナウルの場合は占領・急激な富裕化によって社会システムや慣習まで破壊されてしまいました。そのため、立て直す上で教育など基本的なレベルで改善をしていく必要があることや人口が少ないために、政治における同族の存在が自浄作用を損ねてしまったという点は無視できません。

一つは日本もナウルを占領し、戦場にした過去があることから、ナウルで起きていることは我々日本人も無関係ではないということ。元々、島に住んでいた人たちは、リン鉱石の商業的な価値を知らなかった。しかし、外から来た人たちがその利権をめぐって、彼らを巻き込んでいったというのは事実であるということ。

もう一つは、過去の歴史や教訓を知り・学ぶことの重要性です。単純化できる話ではないですが、もしナウルの人たちが他の国における歴史や教訓を情報として認識していたら、今の自分達の状況を過去の事例と照らし合わせて客観的な視点をもっていたら、もっと違った展開になっていたのではないかと思います。

ナウルの話は、経済の話だけでなく、資源や環境問題の話とも関わっているので、個人的に知っておいた方がいろんなことへの認識が深まる事例かなと思うので、記事の最後に参考文献を載せておくので、この記事を読んで少し興味を持った方は、ぜひ書籍の方を読んで見てみて下さい。(図書館でも借りられると思います。)

参考文献

1冊目の「アホウドリの糞で出来た国」は、イラストがメインで全体像を分かりやすく説明されているので、予備知識がほとんどない人や子どもの最初のとっかかりとして、すごく良い本だと思います。この本は、ホントにすらすら読めて、イラストにもユーモアがあって面白いです。

2冊目のユートピアの崩壊 ナウル共和国は、作中でも触れられていますが、ドキュメンタリーフィルムを文章で読むようなイメージが近いです。こちらの方が、ヨーロッパ人が最初に島に来たことの歴史から現代までを著者の取材を交えて、政治や社会背景、ナウル人の国民性を踏まえた描写や示唆が含まれていて、より深い内容になっています。ただ、よく外国人著者の和訳本にあるようなけっこう読むのにエネルギーを使うほどではなく、1章1章の長さが短いのでわりとすんなり読みやすい本だと思います。

アホウドリの糞でできた国|Amazon

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