【書評】クリエイターや起業家が集う町 “神山プロジェクト:篠原 匡”

 

都会の喧騒や世知辛いマネーに支配された世界に疲れ、時間がゆっくり流れる自然の多い場所で、気の合う人たちとのんびり暮らしたいな〜とふと考える人は僕だけではないだろう。

将来なのかあるいは来年からなのか、人によって様々だが田舎暮らしや移住に興味のある人にぜひオススメしたい1冊を紹介する。

都会での生活をベースにしながら、田舎暮らしの様な時間も持ちたいという人には、こちらのエントリーで紹介している本をオススメする。

週末は田舎暮らし—ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記:馬場 未織

東日本大震災以降、特に個人の生き方や人と人の繋がりに紐付いて、地方や田舎暮らしがより注目されるようになってきているが、実際に移住者が増え、町や村が活性化している具体例はまだ少ない。

日本の現在を鑑みると、なかなか地方が活性しにくい社会構造になってしまっているのが、実情だ。

しかし、山深い町に若いクリエーターや起業家が集う町がある。

発展する田舎:神山

徳島県神山町。

人口6,100人ほどのこの町が「奇跡の町」とささやかれ、NHKのクローズアップ現代やテレビ東京の「ガイアの夜明け」などのメディアでも取り上げられている。

特に、近年はアーティストやクリエイターなどのクリエイティブな人材の移住が加速しており、町の中で外国人とすれ違うことも少なくないそうだ。

徳島市から40~50分ほどの距離で、林業の衰退と共に人口減少の一途をたどっていた町が、数年で大きく変化した。

統計的には、2011年に転入者が転出者を上回るというこの地方衰退の世の中にあって異色の現象が起きている。

具体的な中身を見ていくと、ITベンチャー(9社)が、古民家を借りてサテライトオフィスを開設し、大手のIT企業の社員も短期滞在で訪れている。

また、本書の中でも紹介されいるが、若者が移住してきたことで、数年間でパン屋やカフェ、図書館など様々なスポットが神山町内に新たに登場している。

本書からなぜ、この神山町に惹きつけられる人が多いのかを紐解いて行きたい。

整備された光ファイバー網による抜群のITインフラ

徳島県は、2000年台の半ばから県内に光ファイバー網が整備され、県民一人あたりの規模感では全国1位という抜群の通信環境が整っている。

また、神山町は市内からの利便性も悪くなく、生活費や家賃などのコストも安くすむ。

そのため、働く場所に制約されにくいIT系の企業にとってはうってつけの場所だろう。
IT企業のプラットイーズは、サテライトオフィスのえんがわオフィスを開設した。

働き方が問われている現代社会において、都会とは違う時間の流れを持った場所に身を置くことでアウトプットにもプラスの影響があるだろう。

身近な話でいえば、オフィスのデスクでひたすら仕事をするよりもちょっと気分を変えてカフェで仕事をしたりすると、意外と仕事が進んだりすることに近い気がする。

実際、自社内にラウンジなどくつろげる状態で仕事ができるスペースを置いている企業も増えている。

ストレスフリー(場所やスペースによる閉塞感という意味で)な場所で仕事が出来るとということは、自由に発想することができるし、余計なことを考えずに作業にも集中出来ることで生産性が向上する。

そして、今は仕事によっては東京などの都市部に事務所を構えたり、そこに出勤せずとも仕事ができるようになった。

そんな社会的な情勢の変化が、田舎に新しい需要を生み出した。

日本の田舎をステキに変える!

光ファイバー網によるインフラがIT企業だけではなく、他の移住者などからしても必要な要素ではあるが、著者は本書で移住者を惹きつけるのはこの町や人々が持つ神山という「場」の雰囲気だと著している。

その主体は、グリーンバレー。自分たちのミッションを「日本の田舎をステキに変える!」と称し、移住支援、空き家再生、アーティストの滞在支援などの活動をしているNPO法人だ。

著者は、彼らの性格を「オープン&リベラル」と述べている。
地域づくりに熱心で行動力があるが、良い意味で肩の力が抜けたゆるさを持っている。

そんな雰囲気が、移住者を惹きつけるのだろう。

しかし、その雰囲気もなんとなく醸しだされているのではなく、彼らのしっかりとした考え方とそれに基づく行動によってもたらされていることが伺える。

人に焦点を当てる

神山町では、国内外からアーティストを招聘し、滞在中に作品を制作してもらうアーティスト・イン・レジデンスのイベントを行っている。

その中で、アーティストの募集や選考を専門家など外部にアウトソーシングするのではなく。グリーンバレー自身で行っているのが、特筆すべき点だ。

以下の一節が、とても象徴的だ。

一般的なアーティスト・イン・レジデンスは評価の定まったアーティストを呼び、その作品を集積して観光資源にしていくというモデルを取る。だが、神山の場合は作品よりもアーティストの滞在に重きを置く。作品というハードだけでなく、地元住民や神山の自然と交流することによって形作られる無形の“作品”を重視しているということだ。

アーティストのアウトプットが、話題となり観光資源になるという結果だけではなく、アーティストと住民が交流を通じてともに成長していくプロセスを大切にしているということだ。

そのプロセスを大切している姿勢の中で、特に人に焦点を当てていることが重要だろう。

アーティスト・イン・レジデンスでは、アーティストと住民に視点を置いて考えているし、グリーンバレーは移住者が慣れるまでのケアもしている。

結果、アーティストや移住者など神山町にいることを望む人にとって居心地の良い環境となり、それが人が人を呼ぶ。

結果だけではなく、プロセスを重視する。行政や街づくりだけではなく、ビジネスや国際協力や開発など様々な分野で近年注目されていることだ。
しかし、言葉で言うほど実行することは容易いことではない。

それを地で行っているのは、すごいことだ。それをブレずにいられる人間が町にいることが神山町の最大の財産ではないかと僕は思う。

まとめ

このエントリーでは取り上げていないが、本書では移住者やアーティストによって出現している神山町のスポットを紹介している。

また、そこで働く人にも焦点をあて、彼らが神山町に来た時から今に至る過程や考え方の一旦を見ることができる。

それらを読んだ後に、こんなところに住んでみたいなと思わせるような魅力を感じた。

ただ、本書がグリーンバレーと移住者に焦点を当てている性質上ポジティブな内容が多く、実際はこれだけではないだろうとも思ってしまう部分もある。

そういう意味で鵜呑みは出来ないと思う一方で、実際に住民主体での変化が町に起きている。

この事実は、とはいえ魅力のある町なのだろうと僕の中でひとまず落着した。

機会があれば、ぜひ行ってみたいと思う。

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